日本最北の動物園が、これほどまでに
注目される理由は何なのか?

 全国各地で動物園が相次いで閉園する中、旭山動物園(小菅正夫園長)が快進撃を続けている。パンダのような集客の目玉になる珍しい動物がいるわけではない。どこの動物園にもいるような動物ばかりである。しかし、動物本来の野生の能力を引き出すユニークな展示手法が人気を集め、昨年(2004年)後半の単月入園者数は東京・上野動物園を抜いて日本一に輝き、過去最高の集客数を記録、今年はさらに記録を伸ばし数々の記録を塗り替えたのだ。低迷する旭川経済への波及効果も大きく、日本最北の動物園が地域再生モデルとして日本のみならず世界から注目を集めているのだ。

 その理由のひとつは斬新な施設づくりにある。水中トンネルで三百六十度からペンギンの泳ぐ姿を展望できる「ペンギン館」、羽を拡げて悠然と泳ぐ姿は鳥類であることを誇示しているかのようである。
 地上十七メートルの高さでオランウータンが綱渡りを繰り広げる「空中運動場」。去年出来たばかりの「ホッキョクグマ館」はホッキョクグマが泳ぐ姿を水族館のようにして見るという類のない手法が爆発的な人気を呼んだ。

 また、アザラシが円柱のガラスの中を上下に移動する様子もその魅力を大いに引き出している。まるでアザラシが人間達を観察しに来ているような感覚で実に面白い。

 動物園の人気を復活させるために動物園が考えたのは、サファリパークといった野性的な展示方法などにみられるような「園」を豊かにするのではなく、「動物の生活」を豊かにしようという考えで改革を進めていったことである。

 「行動展示」と呼ばれる独自の展示アイディアが素晴らしい。動物は人間に見られるとストレスを感じるといわれるが、「本来は好奇心が強く、隠れる場所さえあれば自ら人間に近寄ってくる」(小菅園長のお話)。こうした習性を引き出すことで臨場感あふれる展示を考案し、復活の原動力となったのだ。これだけ脚光を浴びても、まだ目標とするところの3分の1程度しか達成できていないという。旭山動物園はまだまだ進化し続けるのである。

 小生も小菅園長の講演を聴いたことがある。実に楽しく興味深いお話をされる方でとても勉強になった。スタッフのモチベーションを高める資質に富んだ方で、大まかな方向性は示すがあとはスタッフの力を信じ、園長としてサポートしているのだ。

 いつも一緒にいる飼育員にしか分からない動物本来の魅力や驚くような行動を「是非、お客様にも観て頂きたい」という旭山動物園のスタッフの「想い」が我々観客の心を揺さぶったのである。地道にコツコツと努力を続けられ、日本一、いや世界一とも言える素晴らしい動物園をつくりあげている旭山動物園のスタッフの皆様には心から絶賛を贈りたい。

 魅力ある病院をつくる上でもいろいろな部分で参考になるような気がする。この病院の魅力は何なのか?それを患者様に感じてもらいたいというスタッフ一同の「想い」を高めることは大切であろう。「行動展示」されるのは患者様…いや、我々スタッフであろうか。観客は一般市民であろうか…。

 病院を豊かにするのではなく、患者様の生活を豊かにすることを目標にしていけば自ずと魅力ある病院へ進化することが出来るような気がする。「発想の転換」という意味では、この旭山動物園の快進撃は医療界においても大いに参考になるだろう。「患者様のニーズが何なのか?」という視点で物事を考えなければ満足な医療を実践することはできないわけである。

 小生も何とか患者様の心を揺さぶるようなはたらきをしてみたいと考えているのだが、如何せん実力が伴わないのである。